日本での「国民発議」実現への道

はじめに

国民発議という言葉は、これまであまり馴染みがないかもしれません。
しかし、決して難しい考え方ではありません。

発議というのは、議論を提起することです。
国民が議論を提起する制度が国民発議です。

日本の社会には、多くの重要な政治的な課題があり、与野党を超えて国会の実のある議論がなされる必要があります。

例えば、原発を今後も使い続けるべきか、選択的夫婦別姓は認めるべきか、消費税はどうすべきか、沖縄の基地はどうするか、など、数多くの重要な議論のテーマがあります。

しかし、残念ながら現状では、国民が議論して欲しいと望んでいるテーマでも、実際に国会が議論してくれるとは限りません。
与野党の政治的駆け引きの方が優先されてしまいがちです。

日本国憲法の第16条には、請願権という権利があって、国会にあるテーマについて議論してくれるように、「お願い」することはできるのですが、現実には、請願をしても、多くの場合は、国会は取り上げてくれません。

そこで私たちは、法律上、一定数以上の署名を集めて要求をすると、国会が必ず、その要求したテーマについて議論してくれる制度を実現するために、国民発議・国民投票法(仮称)の立法を目指しています。

水上 貴央(INIT共同代表、弁護士)

国民発議と国民投票の関係

国民発議の制度を作れば、その請求をした代表者が国会で説明をする機会が与えられますし、報道等もされますから、国会としても、それを全く無視することはできないと考えられます。

国民発議が実現されるだけでも、日本の民主主義を前進させる大きな一歩です。

しかし、せっかく国民発議を実現する法律まで作るなら、国民発議の後に、さらに民意を確認したうえで国会が結論を出せる仕組みまでも検討したいですよね。

そのためには、国民発議された議案について、国会の議決に先立って、国民の意思を示す仕組みである国民投票が必要になります。

このように、国民発議の制度と、国民投票の制度を組み合わせることで、より国民の声を国会が反映しやすくすることが考えられます。

選挙の時だけでなく、日常的に国民が議案を提示したり、意思表明をしたりすることで、民主主義は大きくパワーアップします。

憲法改正を経なくても実現できる

日本の制度では、国の法律は、国会のみに立法権があるとされています(憲法第41条)。
そのため、国の法律の成立や改正や廃止を国民の意思だけで「決める」ということになると、憲法を改正しなければなりません。

一方その議論を提起する」(国民発議)、国会の議決に先立って参酌される意思を示す(=最終決定ではない諮問的国民投票)ところまでなら、改憲によらず、そのための立法をすれば認められると考えられます。

そこで私たちは、まずは、法律を作ることで実現できる、国民発議・(諮問的)国民投票を実現し、それでも十分に民意が反映されなければ、憲法改正についても議論を深めていくという段階的な方法が有力と考えています。

既に地方自治法に国民発議と類似の制度が規定されている

国民発議のように、私たちが議会に議論することを要求できる制度は、既に地方自治法には規定されています(地方自治法第74条)。

具体的には以下のような仕組みです。

したがって、今回実現を目指す国民発議は、この地方自治法第74条をもとに、国の制度として作りこむことで、十分に実現可能です。

具体的には以下のような概要となります。

国民発議と国民投票の二階建ての法律

さらに、私たちが現在検討している法律案では、国民発議を行う時に、さらにもう一段高いハードルをクリアすることで、諮問的な国民投票までも請求できるようにしようと考えています。

〈 署名における二つのハードル 〉

国民発議を求める署名を集める際に、発議だけが認められる要件を超えて、さらに多くの署名を集めると、国会の議決に先立って、国民の意見を国民投票の形で聞くことまでをも求められるという仕組みです。

例えば、10万人の署名で発議までが行え、50万人の署名を集めると、更に国会の議決に先立って国民の意思を確認できる諮問的国民投票まで行われるといった仕組みです。

実際に、どれくらいの署名数を必要とするかという点については、今後、丁寧に議論を重ねる必要がありますが、最初は、この制度の利用を促進するために低めのハードルにして、積極的な制度の利用を促しながら、国民発議が濫用されてしまう状況になった場合には見直せばよいと考えています。

こうした二段階の仕組みは、国民発議を導入している多くの諸外国でも導入されていますし、島根県の島根県民参画基本条例などでも既に組み込まれています。

このようにして、国民が一定の署名を集めることで議題について発議でき、さらに多くの署名が集まり、又は国会の過半数の議員が求めた場合等には、国会による議決に先立って、国民投票が行われることになります。

ただし、この場合でも、最終的には、国会の決議によって決定する枠組みは維持します。

国民発議や国民投票は国会の議論を活性化する

議員の方の中には、これまでは、法律を作る権限は国会議員が独占していたのに、国民発議など認めてしまったら、国会議員の地位が脅かされると考える人もいるかもしれません。

しかし、それは、間違いです。むしろ、国民発議は、国会議員の背中を後押しできる仕組みなのです。

国会で法律や予算などを決めているといっても、現在は、一部の政党執行部が支持団体の顔色を見ながら密室で決めてしまっているのではないかという問題が生じています。

小選挙区制度の下で、選挙時の立候補者を「公認」する権限を持つ党の執行部の力が強くなりすぎているのではないかという問題も提起されています。

国民発議という形で、明確に主権者がある立法や政治問題について議論することを求めていることがわかれば、一人ひとりの議員が、多くの国民の後押しを受けて、その問題を国会で取り上げやすくなります。

また、こうした議論はメディアでも扱われ、注目を集めるので、頑張って議論を展開してくれた議員の努力は報われやすくなります。

このようにして、国会議員が、政党内部の権力者や一部の利害関係者ではなく、国民全体を見て仕事をしやすくなることは、特に、真摯に国政に取り組もうとする議員の方を勇気づける結果になるのです。

国民発議・国民投票を実現する具体的なステップ

立法運動を進めるにあたり、私たちは、オープンな形で議論を進め、条文案の議論や実証実験の実施など、実現に向けた具体的な活動を一歩ずつ進めていきます。

与野党を問わず、この制度を支持してくださる議員の皆さんと広く協力し合い、実際にデジタル技術を使い実験等も積み重ねながら、制度の実現を目指していこうと思っています。

私たちは、既に立法実現のためのプロジェクトチームを作り、国民発議制度の導入に関する「議員連盟」とも連携しながら、実際の条文案の検討に入ります。

そして、この議論を今後も進めつつ、さらにオンラインでの実証実験などを行いながら、具体的な制度を作りこんでいきます。

まず、ステップ1では、超党派、議員と市民共同のプロジェクトチームを作ります。

「国民発議+α」は、民主主義を強化するための手段ですから、その実現は、超党派で、さらに議員と市民が連携して進めていきます。

次に、ステップ2では、実際に条文案を作り、実証実験を行い、国会に立法を求めます。
法案の骨子はINITのホームページに公開予定ですので、是非ご覧いただければと思います。

これを一つのたたき台としながら、多くの人たちと、活発な議論を展開し、内容を練りこんでいければと考えています。
実際に、実験的に国民発議をやってみるというプロセスも考えています。

このような議論の過程や実験の過程自体をホームページや動画等で公開します。

私たちの民主主義を強化する仕組みを作ろうというのですから、私たち自身が、よりオープンな場で法案を完成させたいのです。

そして、このプロセスに何らかの形に参加してくださった方々を、賛同者として結集していきたいと考えています。

デジタル社会は直接民主主義のコストを下げる

国民発議や国民投票の制度が実現しても、そのための署名活動に多大な手間や費用が掛かってしまうと、特定の組織や財源を持った団体などでないと、この制度を使いこなせなくなってしまいます。

そこで、オンライン署名の仕組みなどを活用して、より簡便かつ機動的に署名等を集めて国民発議を活用する仕組みを作る必要があります。

オンライン署名の仕組みは国内にも既にいくつか存在していますから、こうした仕組みを活用しながら実験を行い、具体的なやり方についての検討を進めます。

また、同様の理由で、近い将来には、国民発議に連動して行われる国民投票もオンライン(電磁的方法)で行うべきです。

その準備段階として、まずオンラインによる国民意思調査制度を提案します。

具体的には以下のような制度を考えています。

制度の見直しを予め法律に組み込む

私たちは、制度の開始時点では、国民発議や国民投票を実施するためのハードルはなるべく低くしたいと考えています。

新しい民主主義の手法を導入するわけですから、まずは、国民自身が「発議」したり「意思表明」したりできる、という成功体験を蓄積することこそが、日本の民主主義を一歩前に進めると考えるからです。

その場合に重要なことは、制度の見直しを予め法律に組み込んでいくということです。

国民発議の制度は、使いやすい制度でなければならず、かといって濫用や不正が生じることは避けなければなりません。

そのためには、必要署名数等の適切な設定や、上手なデジタル技術の活用が重要となります。

そこで、この法律については、定期的な制度の見直しを立法段階から織り込んでおき、国民全体で上手に試行錯誤しながら、民主主義をより効果的に高める制度を一緒に完成させていくことを目指します。